鑑別関連の話題として、筆者が把握している限りでは2021年11月から以下のような変更が生じているようです。
- 鑑別書に記載するカタカナ表記の変更
- 中央宝石研究所さんの鑑別書のスタイル変更
それほど重要な事柄ではないと言えばそれまでなのですが、どのような変更なのか、簡単に紹介してみます。
もくじ
鑑別書に記載するカタカナ表記の変更
2021年11月から、AGL(一般社団法人宝石鑑別団体協議会)の鑑別書に記載するカタカナ表記の名称の一部が変更されることがAGLとJJA(一般社団法人日本ジュエリー協会)によりアナウンスされています(アナウンス自体は2021年10月にされていて、11月1日から変更の実施が行われています)。
変更の目的は、これまで用いられていたカタカナ表記をより一般的だと思われる表記に改めるというもので、変更点は以下の4つであるとのことです。
- アウィン → アウイン(鉱物名)
- アウィナイト → アウイナイト(宝石名)
- アクワマリン → アクアマリン(宝石名)
- インディゴライト → インディコライト(青色のトルマリンの別名)
外来語をカタカナで100%「正しく」表記することは不可能なので、変更前の名称が間違っているわけではありません。
ただ、特にアクアマリンなどは鑑別書の表記以外ではアクワマリンと書かれているのを見たことはないような気がするので、より一般的と思われる名称に変更されたというのは確かにその通りな感じがします。
筆者によるどうでもいい考察
さて、筆者は石に関しては長年コレクターをしていると言ってもプロではありませんが、言語の発音に関しては一応専門家であるので、今回の変更に関してちょっとコメントしてみようかと思います。
iaという母音の連続はiyaと発音上区別を付けることが困難です。
身近な例で言うと、pianoは「ピアノ」と書きはしますが、実際の発音では「ピヤノ」のように発音されることが多く、「ピアノ」と「ピヤノ」や「ダイア」と「ダイヤ」を発音のみで区別するのは(かなりゆっくりはっきり読まない限りは)かなり難しいですよね。
同様に、uaはuwaと発音上区別を付けることが困難です。
これはなぜ起こるかというと、発音する際の発声器官(口や舌など)の軌道を考えたとき、実はiaとiya、uaとuwaはほとんど同じ軌道上を動くので音がよく似てしまうためです。
厳密に言うと、iaとiyaの違いは、iからaに移る際の発声器官の動きがゆっくりであればiaに、速ければiyaに、さらに速くなるとyaに聞こえやすくなります。
同様に、uaとuwaに関しては、ゆっくり~速くなるにつれてua → uwa → waとなり、uiであればui → uwi → wiのようになります。
いずれにしても、発音器官の動く速さが異なるのみで軌道はそっくりなので、発音上よく似た音同士に聞こえます。
以上のようなことを踏まえて鑑別書のカタカナ表記の変更パターンを見ていくと、インディゴライト→インディコライトは置いておくとして、それ以外の3つの変更についてはいずれも発音上区別がつきにくい音の連鎖(ua ~ uwa ~ waとui ~ uwi ~ wi)の間での変更となっていることになります。
ゆっくり話すか速く話すかによってどちらに聞こえやすくなるかは変わるものの、発音上は互いに混同されることが充分に考えられるので、発音上正しいかとか間違っているとかいう問題ではなく、基本的には表記上どちらに統一しておくかというだけの問題になります。
ということで、AGLとJJAがアナウンスで示した「変更前の表記でも間違いではない」というのは至極真っ当な見解であると言えます。
ここまでの内容でもかなりマニアックなのでここまで読んでくれている人は少ないだろうと思いますが、ついでなのでさらに書いておくと、言語の音に関する理論では、日本語に限らず、言語一般に母音の連続は音節構造上あまり良い構造ではないとされていて、そのような構造を避けようとして母音と母音の間に子音が挿入されるという風に解釈されたりもします。
ピアノ~ピヤノの例で言えば、iaという母音連続が好ましくない構造なので、間にヤ行の子音が入ることでより好ましい構造に変化したということですね。
この観点から言うと、アウイン、アウイナイト、アクアマリンとも、母音が連続している構造になっているので、今回の変更は音節構造上はあまり良くない方の表記になってしまったと言えるのかもしれません(ただし、アクアマリンなどはaquamarineという英語の綴りに近い形にはなっているので、綴り字をより意識した変更なのかもしれません。アウインとかアウイナイトはおそらくドイツ語起源だと思いますが、HaüyneとかHaüyniteなどを見ると、やはり綴り字的には「アウィ」よりも「アウイ」の方が近そうに思われます)。
中央宝石研究所さんの鑑別書のスタイル変更
中央宝石研究所さんのHPに2021年10月1日付で出ているニュースによると、2021年11月1日から鑑別書のスタイルが変更になるんだそうです。
従来の鑑別書から変更になる点としては、単に検査結果が記載されるスタイルからチェックボックススタイルの鑑別書になるとのことで、これによって鑑別結果を出すために行う分析検査でどのような分析装置を用いたのかが分かりやすくすることが目的のようです。
筆者はまだ変更後の鑑別書を持っておらず、まだ見たこともありませんが、2021年11月現在ではすでに新しいスタイルへの変更が完了しているので、中央宝石研究所さんで色石の鑑別書を依頼したら、チェックボックススタイルの鑑別書が発行されることになっています。
そのうちネットショップやオークションなどでも新しいスタイルの鑑別書を見る機会が増えてくることでしょう。
どんなふうに変わったのか、ちょっと楽しみですね。