フォルスネームは良くないものか?

クイズ:この青い石、何の石?

前回の記事では、フォルスネーム(石の種類を勘違いさせるような紛らわしい名称)について紹介しました。
(フォルスネームについては以下の記事をご参照ください。)

紛らわしい宝石名:フォルスネーム一覧

フォルスネームは、より価値の高い石の名前を借りることで価値が高いように見せるためのものであると見なされています。
実際に、現代の売買において売り手がフォルスネームを使用する場合、そのような目的を持っていると考えられても仕方がないため、できる限り使用すべきではありません。

しかし、フォルスネームの成り立ちを想像してみると、フォルスネーム自体が必ずしも悪いものとは言い切れない面もありそうです。
個々のフォルスネームがいつ、だれによって作られたのかははっきりしませんが、以下では、この点について少し考察してみたいと思います。

大昔の石の分類

現代では、様々な機器を用いて分析することにより、その石の鉱物種や組成を詳細に知ることができます。
しかし、鉱物学や宝石学が発達するまでは、石の種類を正確に判別することは困難であり、石は鉱物種に基づいてではなく色によって種類分けされてきました。
結果的に、本来は異なる種類の石同士が同種の石として混同されるといったことが起こりました。
例えば、イギリス王家に伝わる「黒太子のルビー」が実はレッドスピネルだったというのは有名な話ですが、これは赤い色という共通点に基づいて、ルビーとスピネルという異なる種類の石を混同してしまった例ということになります。

上記の例のような混同は、現代の我々から見れば「石の種類を取り違えた」ということになりますが、鉱物学的な知識を誰も持っていない時代であれば、どちらも貴重な赤い石=「ルビー」でしかなかったはずです。
同様に、昔なら、無色透明でダイヤモンドのように輝いて見える石は、それがダイヤモンドではない石であったとしても、貴重なダイヤモンドの一種として扱ったことでしょう。

天然無処理の石の例:ホワイトトパーズの写真

これはホワイトトパーズですが、見た目だけでは何の石なのかを判別するのはかなり困難です。

フォルスネームの成り立ちに関する推測

現代の我々も、産地を区別するためにバイア(ブラジル)の水晶、アーカンソー(アメリカ)の水晶、・・・といったように、「産地名+石名」という名称を使いますが、昔の人もそれと同じように「産地名+石名」という名称を使っていたことでしょう。
ただし、昔は現代のように石の種類の分類が正確ではなかったので、ボヘミアン・ルビー(実際にはガーネット(=赤い石))やブラジリアン・サファイア(実際にはブルートルマリン)のように、(現代の我々からすれば間違った)名称を疑うことなく使っていたのではないかと思われます。

ところで、どのような鉱物が産出するかは、その土地に含まれるミネラルの成分によって変わってきます。
従って、どんな種類の石が採れるかは国や地域によって偏りが出てくることになります。
石の種類が異なれば、硬度や色合い、屈折率等が若干違うので、昔の人もそうした違いを感じ取っていて、例えば同じ「ルビー」でも地域によって特徴がかなり違うぞということを明確にするため、ボヘミアン・ルビーやブラジリアン・サファイアなど、あえて区別するための修飾語句を付けていたのかもしれません。
(実際、フォルスネームの多くは、「産地名+石名」という構造を持つものが多いような気がしています。)

クイズ:この青い石、何の石?

これはブルートルマリンです。典型的なブルーサファイアの色とは若干異なりますが、やや色の異なるサファイアと見えないこともありません。昔の人がサファイアだと勘違いしたとしても、不思議ではなさそうです。

このようにして使われてきた名称が現代でも残っていて、それが我々の目には偽物を高価な石に見せかけるためのフォルスネームに見えているとすれば、フォルスネームは必ずしも悪いものではなく、むしろ人間と天然石の関りを示す文化的な遺産なのかもしれません。

比較的最近作られたと思われるフォルスネーム

伝統的なフォルスネームについては、必ずしも悪いものとも言い切れないという話をしてきましたが、上記の議論には当てはまらないようなものも存在します。

ルビー・スピネル(実際にはルビーではなくスピネル)のように、「スピネル」という石の存在が分かってから(つまり、鉱物学がある程度発達してから)付けられたとしか考えられないフォルスネームもあります。
日本語では先に来る語が修飾語になるので、この場合は「ルビーのようなスピネル」という意味であくまでスピネルが主なので、純粋に騙そうとして作られた名称ではなさそうな気がしますが、紛らわしいことに変わりはなく、望ましいものではありません。

その他、ギルソン・オパール(合成オパール)やチャザム・ルビー(合成ルビー)のように、「合成石を作っている会社名+石名」という名称になっているものも、ある程度知識がある人にとっては、むしろ合成石であることを明示してくれていることになるので、こういったものも純粋に騙そうという目的で作られたものではないかもしれません。
もちろん、そうした知識がなければ合成石であるとは分からないので、紛らわしいことに変わりはなく、売り手としては(合成石であることを明示しない状態での)使用は避けるべきでしょう。

その他、どのようなものであっても、現代の売買においては、買い手に誤解を生じさせる可能性がある表現を避けるべきであることは言うまでもありません。

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