鑑別書に関連したトラブル(実体験)その1

当該オレンジサファイアのリングの写真

石が本物かどうかを確かめたり、石に対して行われている人為的処理を明らかにするために、「鑑別」という手段があることをこれまでに紹介してきました。
その中で、鑑別は信頼できる鑑別機関に依頼することが重要だと繰り返し述べてきましたが、それには理由があります。
今回は、鑑別機関をきちんと選ばないとどんなトラブルが起こりうるかを、鑑別書あるあるとして実体験をもとにご紹介します。

※このページは以下の記事の内容の一部を構成するものとなっています。

だまされた?!鑑別書あるある(実体験)

鑑別書に関して実際に遭遇したトラブル①:誤鑑別

事例紹介

5年ほど前の話になりますが、とあるネットオークションで、オレンジサファイアのリングが中古販売されていました。
商品説明欄の情報によると、サファイアのサイズは約12mm × 9mmほどとのことで、リングに刻印が無いので正確には分からないものの、5ctほどであるとのことでした。
この大きさは、サファイアとしてはかなり大粒の石になります。
値段は20万円弱程度で、それなりの値段ではありますが、この大きさのオレンジサファイアとしては(色やカット、その他条件にもよりますが)なかなかお買い得なように感じられます。

当該オレンジサファイアのリングの写真

当該オレンジサファイアのリング(写真はペットくんが購入後に自分で撮影したものです)

商品の売りとして、鮮やかな色のオレンジサファイアであるということ、また、鑑別書付きであるということも記載されていて、リングを様々な角度から撮影した写真と、鑑別書の写真が掲載されていました。
掲載されている鑑別書の写真には、「鉱物名:天然コランダムと認む」「宝石名:オレンジサファイアと認む」と記載があり、天然のオレンジサファイアであると記載されていました。

リングに付いていた鑑別書の写真

付属の鑑別書(写真はペットくんが自分で撮影したもので、記事に必要な部分以外は画像処理で除いています。)

筆者(ペットくん)の取った行動

通常、商品説明欄の「鮮やか」という表現はあてにならないことが多く、実際に写真を見る限り、最高級品と言えるほどに鮮やかであるようには見えませんでしたが、かといって色がそこまで悪いようにも見えず、やや茶色っぽさもあるが赤味も感じるオレンジ色といった雰囲気で、それなりに良さそうなオレンジサファイアに見えました。
また、掲載された写真から、石の内部に若干キズのようなものや内包物らしきものが映っているのが見え、天然の石であるように見受けられました。
商品ページのリングの写真と、鑑別書の方に掲載されているリングの写真を見比べてみたところ、特徴が共通していることが確認でき、鑑別書はそのリングに対して発行されたもので間違いないと思われました。

天然のサファイアには、人為的処理として加熱処理が行われていることが一般的なので、この石も加熱されているだろうと想定していましたが、サファイアに対する加熱処理は宝石業界では許容される処理に当たるので、個人的には特に問題はないと考えていました。
ただし、オレンジサファイアには、通常の加熱処理以外にベリリウム拡散処理がされている可能性があり、こちらの処理がされている場合は宝石として価値がほぼゼロになってしまうため、その可能性についても考える必要がありました。
そこで、鑑別書の写真を見てみると、開示コメントとして「通常、色の改善を目的とした加熱が行われています」と記載されていました。

AGL(宝石鑑別団体協議会)ルールでは、ベリリウム拡散処理がされている場合、または、その可能性がある場合は、「外部からの元素の拡散加熱処理が行われています」(または、「人為的な外部からの元素の拡散加熱処理に関する検査は行っておりません。明瞭な確証を得るためにはより高度な分析を要します。」や「拡散加熱処理に関してはより高度な分析を要します。」など)のような開示コメントが入るはずです。
「通常、色の改善を目的とした加熱が行われています」は、通常の検査の範囲内では加熱の痕跡が見つからなかったことを示すものなので、ベリリウム拡散処理はされておらず、むしろ非加熱である可能性すらあるかもしれません。

ただし、上記の話はその鑑別機関がAGLルールに則って鑑別書を発行している場合に限られます。
そこで、その鑑別機関がAGL会員であるかどうかを、AGLのホームページで確認してみたところ、その鑑別機関(名前は伏せます)は大手の機関ではないもののAGLの会員であることが判明しました。
AGLの会員であれば、当然AGLルールに則って鑑別書を発行しているはずで、鑑別結果にも信頼がおけると考え、当該オレンジサファイアにはベリリウム拡散処理はされていないであろうと判断しました。
値段は20万円弱で気楽に変える金額ではありませんでしたが、通常の加熱がされたオレンジサファイア(非加熱の可能性もゼロではない)で、5ct程度の大きさであることや写真で写っている色などを総合的に考えると、かなりお買い得な買い物であるように感じられます。

・・・と、色々なことを考えた結果、購入するに至りました。
購入後、商品を受け取って中身を確認しましたが、間違いなく商品ページに映っているリングと鑑別書が送られてきていました。
色も商品ページの画像の色と実物の(実際に目で見た)色はかなり近い印象で、内部に内包物らしきキズが若干見えはするものの、なかなか良い石だと感じられました。
特に商品説明の内容と矛盾する部分もなく、良い買い物をしたと思い、そのまま数年間が過ぎました。

その後

数年後、知り合いの宝石仲介業者の人から、何か商品を出品しないかと声をかけられ、本件のオレンジサファイアのリングを含めていくつか出品してみることになりました。
その際、念のため、非加熱かどうかを見ておこうかということで、このブログでよく出てくる中央宝石研究所さんで新たに鑑別(ソーティング)を依頼してみました。
その結果、以下の結果が得られました。

当該オレンジサファイアを別の鑑別機関で鑑別した結果の写真

別の鑑別機関(中央宝石研究所さん)での鑑別結果

結果は、写真のとおり「合成サファイア」とのことでした。
ベリリウム拡散処理がとか、通常の加熱がとかいう以前に、天然の石ですらありません。
石の内部にインクルージョンがあるように見えたし、素人目には以下にも天然の石っぽく見えたのですが・・・。
合成石というと、一般には天然ではありえないくらいきれいな石を想像しますが、中には天然に似せてあえて汚く(鮮やかすぎず、また、内部もクリーンすぎず)作ってある石もかなりあるようで、今回のケースはそれに該当する石のようでした。
天然のものであれば、20万弱でもそれほど高い買い物ではありませんが、合成石であればこの金額は高すぎなので、結果的に大損したという話です。

今回のケースでは、出品者は鑑別書の結果を見て、天然のオレンジサファイアだと思って(偽物とは知らずに)販売していたものと思います。
が、もしかすると、出品者は天然でないことは知っていたが、鑑別機関が間違って判定したからしめしめと思って販売したとか、そもそも鑑別書が偽造されたものである、といった可能性もあるのかもしれません。
ただ、どうであったにしても、ネットオークションでの個人間でのやり取りで、購入から数年経過してしまっているので今更返品とかいうのも難しいため、泣き寝入りするしかありませんでした。
今回、ブログのネタの一つにすることができたので、それが唯一の救いかもしれません。

鑑別機関が誤鑑別した場合の補償は?

今回紹介したケースのように万一鑑別結果が誤りだった場合、鑑別機関では鑑別規約に基づいて一定の補償をしてくれます。ただし、一般的に、購入による損害をすべて立て替えてもらえるとかいうことではなく、その時支払った鑑別料金を返してもらえる(ただし定められた補償期間内に限る)という形の規約内容になっていることが多いでしょう(今回のケースで登場した鑑別機関の規約もそのようになっていました)。
個人的には補償してもらった経験はありませんが、もし保証してもらう場合、自分が依頼して取得した鑑別書なら自分に返金してもらうということでいいでしょうが、商品に鑑別書が付属していた場合、その鑑別書を取得した人(またはお店)を通して返金してもらうことになるのが筋かと思うので、その場合手間が2重になりそうですね。

まとめ

今回紹介したケースは、「鑑別機関によっては、合成(人工)石であることを見抜けず、天然であると誤って判断してしまうことがある」というもので、筆者(ペットくん)自身、このケースを通して鑑別機関の信頼性が非常に重要であるということを身をもって知りました。
鑑別は人間が行う作業であるため、どんな鑑別機関であっても間違った判定をしてしまう可能性はゼロではありませんが、信頼できる機関に依頼する方が、そうしたリスクを低く抑えることができるはずです。
皆さんも高額な石を購入する際は、単に鑑別書が付いているということで安心するのではなく、どこの鑑別機関が発行した鑑別書なのかという部分もしっかりと確認したうえで判断することをお勧めします。

教訓
  • 鑑別書が付いているからといって、絶対安心とは限らない(信頼できる鑑別機関の方が、間違いが起こるリスクは少ない)
  • 鑑別書付きの商品を購入する際は、その鑑別書が信頼できる鑑別機関が発行したものであるかを確認した方がよい

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