※この記事は以下の記事の内容の一部を構成するものとなっています。
天然石に対する人為的処理の種類と鑑別書での表記もくじ
その他の処理
これまでに言及していないその他の処理としては、ブラックオパールに対する砂糖液浸漬や、張り合わせ石があります。張り合わせの石としては、オパールと別の素材を張り合わせたダブレットやトリプレットが有名です。
鑑別書では、処理の内容に応じたコメントが記載されます。
これらの処理がされた石は、宝石としての価値は高くありません。
オパールのダブレットやトリプレットの中には見た目が非常にきれいなものもあるので、張り合わせの処理がされていることや価値が高いものではないことを承知したうえで購入する分には良いかもしれません。
まだ知られていない処理、定義が確立されていない処理
これまでに紹介してきた処理は、あくまで「現時点で知られている」処理になります。
将来的には、鑑別書の処理の表記が変更されたり、新たな項目が加わってくる可能性もあります。
そのような可能性の一つとして、近年、コランダム(ルビーやサファイア)に対する新しい処理として、高温低圧での加熱処理が行われるようになったという指摘がされています。Lotus Gemology(海外の鑑別機関)の2019年2月の記事によると、この高温低圧処理がされたサファイアは2009年ごろに初めて市場に登場し、2016年ごろにはより一般的に普及するようになりました。この種の高温低圧処理が従来のコランダムに対する加熱処理とは別の新しい処理であるとすべきか(鑑別において新しい処理のカテゴリーを作って情報開示すべきか)については議論の最中であり、世界的に統一された方針作りにはまだ至っていない模様です。
上記のLotus Gemologyの記事では、処理によって得られる結果に関して高温低圧処理と従来の加熱処理の間には明確な質的違いを見出すことができず、よって高温低圧処理された石も従来の加熱処理がされた石も「加熱処理がされている」という形で情報開示すれば足りる(高温低圧処理について、別途開示する必要はない)との見解が示されています。この記事は、日本の中央宝石研究所をはじめとし、GIAやSSEF、Gübelin Gem Labなど世界の著名な鑑別機関の協力のもとで書かれた記事であるとのことで、信頼性は高そうです。これらの鑑別機関はLMHC (The Laboratory Manual Harmonisation Committee)のメンバーでもあることから、この見解が世界的なルールとして使われるようになりそうな雰囲気を感じます。
なお、Lotus Gemologyの記事は原文は英語で書かれていますが、中央宝石研究所さんのホームページ(「宝石について」→「CGL通信 Vol.51」)に行くと日本語訳された記事が掲載されていて、日本語で読むことができます。論文調の長い文章ですが、加熱処理の歴史などの情報もまとめられているので、関心のある方は見てみると参考になると思います。
未知の処理に対する鑑別の限界について
天然石に対する処理は進歩し続けていて、新しい処理方法が次々と生まれてきています。
処理方法の進歩に伴い、宝石学の専門家たちが様々な研究を行ってその処理の痕跡を見つける方法を開発し、鑑別ルールの改定を行っていますが、市場に新たな処理がされている石が出回っていることが判明し、その鑑別方法が確立するまでにはタイムラグが生じます。
従って、鑑別書を取得した時期によってはその処理が見落とされてしまうという可能性もあります。
これはある意味仕方のないことで、鑑別機関だけを責めるのは酷というものでしょう(そもそも処理の情報を開示しないで販売している側が悪い)。
処理の有無に関する鑑別結果が絶対的に正しいとは言いきれない中で、我々一般の購入者はどのようにすればハズレを引かずに済むでしょうか?
これは諏訪貿易の諏訪恭一会長が著書の中で常に言っておられる通り、信頼できるお店から購入するということに尽きるでしょう。
鉱山で採れてから販売されるまでの経路がはっきりしている石であれば、仮に鑑別で結論が出せなくても、処理の有無が明確に分かります。
高級な宝石ではなく、パワーストーン系の石を買う場合でも、知識をしっかり持った店員さんがいるお店であれば、処理の有無についてしっかりと教えてくれるでしょう。
(個人的には、処理の有無が分からない場合には「分からない」とはっきり言ってくれるお店は逆に信用できるなと思います。)
処理の有無が問題になるのは、価値に大きく影響するため(特に宝石の場合)ですが、石を購入する目的が単に見たり身に着けて楽しむことにある場合、人為的処理については気にしないようにするというのが合理的な方法の一つとなるかもしれません。
処理された石は、無処理できれいなものと比べれば格安で入手できることが多いし、元が天然石なので耐久性も無処理のものと大差ありません(石の種類や処理の種類によっても変わってきますが)。
処理の中には、比較的短時間で効果が無くなってしまう(表面に色を付けただけとか、塗料をヒビに入れて着色してあるような場合、色が徐々に落ちていくなど)ようなものもありますが、それらを「劣化」としてではなく「石とコミュニケーションしていくうちに色が変化した!」のように肯定的な捉え方をして、それも含めて楽しむことができれば、それが最も賢い方法だとも言えます(世の中、楽しんだ者が勝ちですからね)。
様々な価値観があって良いと思うので、自分にあった石の楽しみ方を見つけてもらえたらなと思います。