天然石の業界では、年々新しい人為的処理方法が生み出されています。
新しい処理方法が出てきた場合、その処理を看破するためには様々なサンプルを取って研究し、その処理の特徴を明らかにしなければなりません。
しかし、研究にはそれなりに時間がかかるので、新しい処理が行われた石が市場に出回ってからそれを看破できるようになるまでにはタイムラグが生じます。
このタイムラグの間に購入してしまった場合、鑑別書を取得してもその新しい処理については見逃されてしまうということが起こり得ます。
今回は、その一例として筆者が購入したグリーン・クォーツの話を紹介します。
もくじ
緑色の水晶の分類について
プラシオライト(グリーンド・アメシスト)
クォーツ(水晶)には様々な色のものがあり、それぞれ異なる宝石名で呼ばれます。
様々な色合いのクォーツは自然界で作り出される場合もありますが、加熱処理や放射線照射処理などの人為的処理によっても作り出されます。
例えば、アメシスト(紫水晶)を一定の温度(全国宝石学協会の2006年4月28日付のResearch Lab. Reportによると、350°Cから550°Cとのこと)で加熱するとシトリン(黄水晶)に変化するというのは有名な話です。
特定の産地のアメシストについては、適切な条件下で加熱するとグリーンに発色するものがあり、この種の石はプラシオライトまたはグリーンドアメシストと呼ばれています。
天然(無処理)の状態でグリーンの発色をしたクォーツが産出することもありますが、鑑別では加熱によって得られたグリーンの発色と区別をすることができないとされています(同レポートより)。
放射線照射処理によるグリーン・クォーツ
上記のプラシオライト(天然または加熱)とは異なり、放射線照射処理によってグリーンに発色したクォーツが大量に出回った(今も販売されていると思いますが)時期がありました(上記のレポートによると、出回り始めたのは2005年の上半期頃からとされていて、筆者が購入したのもその年になります)。
全国宝石学協会のレポートによると、照射処理によるグリーン・クォーツは、チェルシー・カラー・フィルターという特殊なフィルターを通してみると赤色を帯びて見えるとされており、加熱によって得られたグリーンド・アメシストはこの特徴を持たないので、これによって判別できるとされています。
放射線照射処理の情報を隠して(知らずに)販売されていたグリーン・クォーツ
筆者が照射処理によるグリーン・クォーツを購入したのは、この手の石が出回り始めてすぐの頃でした。
当時石を良く購入していたお店で、10ctを超える大きさの「プラシオライト」(当時はお店側も照射処理による発色であることを知らなかったようです)がかなりの数入荷していて、その中から15ctほどのものを購入することになりました。
お店の説明では、天然無処理ではなく加熱処理された石だとのことですが、加熱処理についてはあまり気にならない(そもそも、鑑別でも加熱の痕跡が残らないので判別できない)のと、値段がとても安かったのですぐに購入することに決めました。
加熱処理ではあっても、プラシオライトは比較的レアな石であり、大粒でクリーンな石はなかなか見かけることがなかったので良い買い物をしたと思っていたのですが、購入後しばらくして、全国宝石学協会の上述のレポートが出てきました。
購入した石は時期的に照射処理のグリーン・クォーツが出回り始めた時期と重なっていたし、非常に安かったので当然心配になります。
レポートによると、チェルシー・カラー・フィルターで照射処理のものかどうかを判別できるとのことだったので、さっそくフィルターを購入して見てみることにしました。
結果的に、フィルターを通してみると赤味がかかって見えたことで、照射処理によるグリーン・クォーツである可能性が極めて高いことが分かった次第です。
(そのうち機会があったら鑑別を依頼してみようかなと思っています。)
まとめ
今回紹介した事例は、その当時新たに出てきた処理石であったため、お店側も処理のことを知らずに販売していたというケースです。
購入時に鑑別書は取得しませんでしたが、タイミング的に鑑別機関の方でその処理が認知されていたかどうかが分からないので、仮に鑑別書を取得していたとしても、照射処理の看破ができていたかどうかは分かりません。
このようなケースで怪しいかどうかを判断する際に手がかりになるのは、個人的には価格かなと思います。
筆者のこれまでの経験で言うと、通常大量に出回ることがないタイプの石が非常に安い値段で販売されている場合、何か裏に隠された事情があることが大半です。
もちろん、高ければ安心というわけではないですが、以前別の記事でも書いたとおり、本当に価値のあるものを二束三文で売ろうとする人はまずいないので、極端に安い場合は疑ってかかった方が安全と言えるでしょう。