鑑別書の読み方に関する記事の中で、石の名前には鉱物名と宝石名の2種類があるということを紹介しました。
鉱物名と宝石名がほぼ一緒の石もあれば、鉱物名と宝石名が全く別の名称になっていて、一般的には別々の種類の石だと思われているけれど実は同じ鉱物に属する石、なんてものも結構あります。
今回は、こうした鉱物名と宝石名のずれについて代表的なものを紹介していきます。
もくじ
鉱物名と宝石名はどう違う?
鉱物名と宝石名
鉱物とは、原子が規則正しく配列した無機質の単結晶(オパールなど、結晶構造を持たないものも一部にあります)で、ほぼ一定の化学組成を有するものを指します。
鉱物の結晶構造やその中に含まれる微量の元素などによって、同じ鉱物であっても異なった発色の石が変種として生じる場合があり、こうした変種について固有の名称が与えられて独立した宝石名となります。
ざっくり言うと、鉱物名は石のグループの名前、宝石名はあるグループ内で色や組成によってさらに細分化された変種の名前という感じで捉えることができるでしょう。
動物で言えば、鉱物名に当たるのがイヌやネコなどのレベルで、宝石名の方はプードル、チワワ、シェパードなどに当たるレベルと言ったら分かりやすいかもしれませんね。
鉱物名と宝石名のずれ
専門外の人間からすれば両者は同じもののように見えますが、鉱物名の方がより広い概念で、しかも鉱物名と宝石名が同じとは限らないので、一般的には別の種類の石だと思われている2つの宝石が、実は同じ鉱物に属しているということもしばしばあります。
例えば、ルビーとサファイアは同じコランダムという鉱物になりますが、赤色であればルビー、それ以外の色であればサファイアというように、同じ鉱物であっても色によって異なる宝石名が付けられています。
クイズ:これって何ていう石?
このページ冒頭の写真に映っている石は、何という石でしょうか?
これに対する答えは、鉱物名で考えるか宝石名で考えるかによって異なってきます。
鉱物名で言うと、写真に映っている石はすべてクォーツ(水晶)です。
でも、宝石名で言うと、白~透明の原石はロッククリスタル、右端の原石はルチルクォーツ、左端の原石はロッククリスタル(表面および内部にクローライトという緑色の物質が付着したもの)、中央付近の黄色~オレンジの3つのルースはシトリン、紫色の2つのルースはアメシストと、全く別の名称になります。
[2021年4月19日追記: 右端の原石はこの石はザギマウンテンというところで採れたクォーツで、先日はルチルクォーツと書きました(購入時、お店の人がルチルがぎっしり詰まったクォーツと言っていました)が、その地域の石に含まれるのはルチルではなくアストロフィライトという鉱物だという噂を聞きました。この石もそうなのかもしれません。ともかく、別の鉱物を内包したクォーツということになります。]
鉱物名と宝石名に関しては、以下のページにクイズを用意してあります。
関心がある方はぜひチャレンジしてみてください。
代表的な石の鉱物名と宝石名の対応関係
同じ鉱物に属するが色によって宝石名が大きく異なる例としては、他にも以下のようなものがあります。(細かいものまで挙げていくときりがないので、この記事では代表的なものを紹介するに留めています。鉱物と宝石の一覧・網羅的な情報については、また別の機会に専用のページを作って徐々に充実させていきたいと考えています。)
コランダム
コランダムのうち、赤い色をしたものをルビー、それ以外の色のものをサファイアと言います。サファイアについては、色によってブルーサファイア、イエローサファイアなど、「色名+サファイア」のようにさらに細かく分かれます。
- 赤色のコランダム・・・ルビー
- 赤以外の色のコランダム・・・サファイア
・ブルーサファイア
・イエローサファイア
・オレンジサファイア
・ピンクサファイア
・グリーンサファイア
・バイオレットサファイア
・パープルサファイア
・パパラチャサファイア(ピンク~オレンジの中間色)
・ホワイトサファイア
ベリル
ベリルのうち、緑色のものはエメラルド、水色のものはアクアマリン、ピンク色のものはモルガナイト、赤色のものはレッドベリル(ビクスバイト)、といったように、異なる宝石名が付いています。
- 緑色のベリル・・・エメラルド
- 水色(薄青)のベリル・・・アクアマリン
- ピンク色のベリル・・・モルガナイト
- 赤色のベリル・・・レッドベリル
- 黄色のベリル・・・ヘリオドール
- 無色のベリル・・・ゴシェナイト
クォーツ(水晶)
クォーツにも様々な色の変種があります。色による変種だけでなく、内包物の種類によっても、ルチルクォーツ、デュモルチェライトインクォーツなど、様々な名称が付きます。パワーストーン業界では、結晶の形や産地によっても様々な細かい分類がされ、独立した名称(ダウクリスタル、レムリアンシードクリスタル、等々)が付けられることがあります。
- 無色の水晶・・・ロッククリスタル
- 黄色~オレンジの水晶・・・シトリン(黄水晶)
- 紫色の水晶・・・アメシスト(紫水晶)
- 茶色の水晶・・・スモーキークォーツ(煙水晶)
- 黒色の水晶・・・モリオン(黒水晶)
- 緑色の水晶・・・プラシオライト、グリーンアメシスト、グリーンクォーツ
- ピンク色の水晶・・・ローズクォーツ(紅水晶、薔薇石英)
トルマリン
トルマリンは、分子の組成によってエルバイト、リディコータイト、ドラヴァイト、・・・のようにさらに細分化される場合がありますが、宝石鑑別においては「トルマリン」と一括りで扱われるのが一般的です。トルマリンは、鉱物名と宝石名(色名+トルマリン)が基本的には大きく異ならないのですが、色によっては特殊な別名が付くことがあります。特定の成分による色については、クロムトルマリン(濃いグリーン)、パライバトルマリン(ネオンブルー~グリーン系)などの名称が付くものもあります。紫色のトルマリンについてはシベライトと呼ばれると聞いたことがありますが、宝石質の鮮やかな色をした紫色のトルマリンは滅多に見かけることがありません。
- 赤色のトルマリン・・・レッドトルマリン、ルベライト
- 緑色のトルマリン・・・グリーントルマリン、ヴェルデライト
- 青色のトルマリン・・・ブルートルマリン、インディゴライト
- 黄色のトルマリン・・・イエロートルマリン、カナリートルマリン(※カナリア色のトルマリンの意)
ガーネット
ガーネットには様々な変種があり、結晶を構成する成分によって様々な下位グループに分けられます。詳細について説明し始めると初心者向けのレベルを遥かに超えてしまうので、ここでは宝飾品としてよく見かける変種名とその典型的な色をいくつか挙げるにとどめておきます。
- ロードライトガーネット・・・赤紫系の色
- スペッサータイトガーネット(スぺサタイト、スペサルティンとも)・・・オレンジ系の色
- ツァボライト(グリーンのグロッシュラーガーネット)・・・緑系の色
- デマントイドガーネット・・・緑系の色
- Oldershaw, Cally (2008) Gems of the World. Buffalo, NY: Firefly Books.
- 八川シズエ(2000)『パワーストーン百科全書』中央アート出版社.