天然石の耐久性

最も丈夫な石は何かと聞かれたら、皆さんはどう答えるでしょうか?
ダイヤモンドは世の中で最も硬いから、ダイヤモンドだと答える人が多いかもしれません。
ところが、これは正解でもあり、不正解でもあります。
なぜかというと、石の丈夫さ(固さ)には、複数の次元が存在していて、ある観点からは丈夫と言える石が別の面では丈夫とは言えない、といったことが生じるためです。

石の耐久性に関する特徴を理解していないと、せっかく買った石が破損したり、劣化してしまうということにつながりかねません。
今回は、こうした石の耐久性に関係する要因について紹介します。

石の「丈夫さ」とは?

我々の一般常識として、石は通常硬くて丈夫なものですが、この「丈夫さ」という概念には複数の定義が存在します。
天然石の耐久性について考えるうえでまず押さえておくべきなのは、①「他の物体と擦れあったときの傷つきやすさ」と②「衝撃を受けたときの割れ・欠けやすさ」です。
この2つは別次元のものなので、表面にひっかき傷はつきにくいが衝撃を受けると簡単にパカッと割れてしまう石や、表面にひっかき傷はつきやすいが、多少衝撃を受けても簡単には割れにくい石、のように様々なタイプの石が存在することになります。

さらに、石によっては色が退色してしまいやすいとか、酸に侵されやすいとかいった特徴を持つ場合もあり、これらも耐久性を考えるうえで重要な点の一つです。
(退色については石そのものが壊れるというわけではないですが、購入時の状態が保たれないという意味では耐久性に関係があると言えるでしょう。)

以上のような耐久性に関係する要因について、以下で詳しく見ていくことにしましょう。

硬度

上記の①のようなひっかき傷に対する丈夫(表面の硬さ)さを表す概念として、「硬度」があります。
一般に、天然石の硬度についての話では、「モース硬度」という指標が使われることが多いでしょう。
モース硬度は、簡単に言うと異なる石同士でひっかきあった場合にどちらに傷がつくかで序列をつけた相対的な硬さの指標で、最も硬いダイヤモンドの硬度が10となります。
モース硬度が高いほど、表面にひっかき傷がつきにくく、摩耗しにくいということになります。
以下に代表的な石のモース硬度を挙げてみます。

代表的な鉱物・宝石 モース硬度
ダイヤモンド 10
コランダム(ルビー・サファイア) 9
トパーズ 8
クォーツ 7
長石(ムーンストーン系の石) 6
アパタイト 5
フローライト 4
カルサイト 3
ジプサム(石膏) 2
タルク(滑石) 1

なお、硬度は常に一定とも限らず、方向(縦とか横)によって硬度が大きく異なる石も存在します。
こういうタイプの石の例としてよく耳にするのは、カイヤナイトあたりでしょうか。

さて、統計学を勉強したことがある人ならピンとくると思いますが、このモース硬度はいわゆる順序尺度で、モース硬度上の単位の差は等間隔というわけではありません。
例えば、ダイヤモンド(モース硬度10)、ルビー(モース硬度9)、トパーズ(モース硬度8)の間の硬さの差は、ダイヤモンドとルビーの間の差は圧倒的に大きいのに対し、ルビーとトパーズの間の差はそこまで大きくありません(イメージ的には、「ダイヤモンド >>>>> ルビー > トパーズ」みたいな感じ)。

このように、同じモース硬度上で1の差であっても、実際の硬さの度合いは大きく違ってくるわけですが、それをもっと正確に(連続尺度上に)表すことのできる「ブリネル硬度」や「ヌープ硬度」、「ビッカーズ硬度」といった指標もあります。
関心のある人は検索して調べてみてもいいでしょう。

硬度の測定は破壊検査です

硬度を調べようと思ったら、(モース硬度であれば)石同士をこすり合わせていけば硬度を特定することができますが、硬度の検査を行うと当然ながら石の表面に傷がつくことになります。必要な場合を除き、むやみに石をこすり合わせないようにしましょう。特に、お店で購入前の石を別の石とこすり合わせたりするのは商品を傷つけることと等しいので、絶対にやめましょう(やるなら購入後に自分の責任でどうぞ)。

靭性

(モース)硬度が表面の硬さだとすると、靭性は衝撃に対する粘り強さ(ひびの入りにくさ)を指します。
この靭性が高いほど、落としたりぶつけたりして強い衝撃が加わったときに欠けたり割れたりしにくいということになります。
モース硬度の観点からはダイヤモンドが最も硬いということになりますが、靭性の観点ではヒスイ(細かい繊維が絡み合っている構造なので欠けにくい)やコランダム(ルビー・サファイア)の方がダイヤモンドよりも丈夫だとされます(とは言っても、ダイヤモンドも他の石に比べれば充分靭性は高いですが)。

また、同じ種類の石(例えば、ルビー)であっても、高温で加熱処理された石は、無処理の石と比べて靭性が低くなるという話を聞いたことがあります(学術論文等、検証に基づいて書かれたもので読んだというわけではなく、聞いただけなので真偽のほどは分かりませんが・・・)。
なお、割れやすさについては、次の項目で紹介する「劈開性」の方がより重要な要因となるかもしれません。

劈開(へきかい)性

衝撃に対する丈夫さに大きく関わる要因として、劈開性があります。
劈開とは、一定の方向に向けて割れやすい特徴のことで、この特徴を持つとされる石の例として有名なものとしては、宝飾品に使われるものではダイヤモンド、トパーズ、クンツァイト等、パワーストーンや原石系ではフローライトやカルサイト、ロードクロサイト等があります。
ダイヤモンドは非常に硬い物質ですが、この劈開性を持っているため、特定の方向から強い力を加えるとスパッと割れる特徴を持ちます。ダイヤモンドのカットは、こうした鉱物的な特徴を利用して行われています。

このページ冒頭の写真はブルーのフローライトで、ルースとしてカットされたものです。
フローライトは硬度が低いだけでなく劈開性が強いので、カットの際に割れてしまうことも多いようです。
ルースの形にはなっていますが、ジュエリー等に使うには硬度の面でも靭性の面でも耐久性に難ありなので、もっぱら観賞用になっています(扱うときはいつもびくびくしながらの作業になります)。

劈開性の強さには複数の段階がある

劈開性は、石の結晶を構成する原子間の結合の強さが向きによって異なることに起因するもので、結晶構造を持つ石に生じるものです。
劈開は「ある・ない」のように単純に二分法で分けられるのではなく、完全(非常に劈開が強い)なものから弱いものまで複数の段階があります。
鉱物の本などを見ると、ある石の劈開について「完全」「明瞭」「不明瞭」といったような表記がされていたりします(※何段階に分けるかは本によっても多少異なる場合があります)が、これが劈開の度合いを表しています。

亀裂

亀裂とは、石内部にあるひびや内包物による割れのことです。
石に亀裂が生じる理由としては、地中で生成された段階での地殻変動等による圧力や温度の急激な変化、採掘時の衝撃等、様々なものが挙げられます。
亀裂は劈開のような結晶構造に依存するものではないので、亀裂の入り方は通常ランダムになり、特定の方向性を持ちません。

石の中には、地中で生成されて採掘されるまでの間に様々な理由で石内部にひびが入る場合があり、そのような石の場合は(仮に劈開性がなく、硬度や靭性が高くても)割れやすかったりします。
また、同じ鉱物種でも、エメラルドは原石の段階でもともとひびが多いのに対し、アクアマリンはひびの少ないものが取れやすいなど、宝石種ごとの傾向もあります。
そもそも、劈開性のない種類の石でもものすごい力が加われば当然割れたりするので、どんな種類の石であっても、丁寧に扱うに越したことはありません。

含浸処理された石には注意が必要

含浸処理とは、石の亀裂にオイルや樹脂をしみこませて、石のヒビを見えにくくする処理を指します。元の石のヒビの程度にもよりますが、含浸処理によって、見かけ上ヒビがあることが分からなくなるようなケースもあります。しかし、見かけ上消えただけであってヒビがなくなったというわけではないので、ヒビがない場合と比べると脆くなりがちです(どんな物質を含浸するかにもよるでしょうが・・・)。
ジュエリー系の石では含浸と言えばまず思い浮かぶのはエメラルドへのオイル含浸やヒスイへの樹脂含浸ですが、最近ではルビーにも鉛ガラスの含浸が行われて大量に出回っています。また、パワーストーン系の石については様々でしょうが、結構含浸された石は多いと思われるので、身に着ける際には注意が必要でしょう。

含浸処理については、以下の記事でも解説しています。
天然石に対する人為的処理:含浸

安定性

衝撃や圧力、温度変化等の物理的な要因以外に、酸や塩分、薬品などによって石の表面の状態や構造が影響を受ける場合があります。
石の耐久性を考えるうえでは、こうした化学的な面での安定性も重要になります。
水分に弱い石もある一方で、オパールのように乾燥するとひびが入ってしまう石、みたいなものもあるなど、扱いが難しい石も結構あります(と言っても、そこまで神経質にならなくていいことが多いですが)。
サンゴやパールなどの有機物系の石(?)は、汗や化粧品によって表面の光沢が失われやすいとされているので、身に着けるときは注意が必要です。

その他、石自体の変質とは異なりますが、太陽光に長時間さらされたりすると退色する(色が薄くなる)石というのもあります。
退色しやすい石としてよく聞くのはブルーベリルやクンツァイトなどです。
パワーストーン関連の業界ではアメシストも退色する石に含められていることが多いですが、ジュエリー系の業界ではこれはあまり言われないような気がします。

筆者自身の経験では、アメシストのルース購入時に「退色するって聞くけど太陽光には当てない方がいいですか?」と聞いたら、「アメシストは基本退色しないから気にしなくていい」と断言されたことがあります。
一日中太陽光のもとに晒すという行為を何年間も続ければそうなる、ということはあるのかもしれませんが、通常の仕様の範囲内では問題ないようです。
実際、下の写真のアメシストは購入してから部屋の中に普通においていて、かれこれ15年以上経っていますが、しっかりと濃い色を保っていて退色している気配はありません。

15年以上前に購入したアメシストの写真

15年以上前に購入したアメシストの写真

一方、アメシストと同じく15年以上前に購入したフローライト(このページ冒頭の写真に映っているもの)については、部屋の中(直射日光は当たらない場所)に置いておいたところ、若干色が薄くなってきた印象です。
破損が怖いので普段は常にルースケースに入れっぱなしなのですが、久々にケースから出して見てみたところ、部分的に退色したのか色むらができていました。
正面(下の左側の写真)からではわかりにくいのですが、裏側(下の右側の写真)を見ると、部分的に色が抜けてしまっているのがはっきりと見えます。(写真ではわかりにくいかもしれませんが、矢印の部分です。)
若干色が薄くなったように見えたのはこのせいだったようです。

すべてのブルーのフローライトがこうした退色性を持つのか、それともこの石固有の事情が何かあるのか(例えば、この石はブラジルのバイア産と聞いていますが、その産地の石はそのような傾向がある、または、ブルーのフローライトのなかには放射線照射処理がされたものがある(現時点では色の起源の判定不能)らしいので、この石がその処理を受けたものであって、この処理による色は退色しやすい、・・・など)、特定することは困難です。
ただ、フローライトに限らず、人為的処理の有無や産地によって安定性が異なる場合があるという話はよく聞くので、自分が購入しようとしている石についてどのような扱い(手入れや保管方法など)が必要なのかは、お店の人に尋ねるのが一番でしょう。

人為的処理と退色

人為的処理によって着色されたような石は、比較的容易に色が落ちたり変色したりしてしまいます。一般に退色の心配はないとされている石であっても、着色等の人為的処理が行われている場合、時間の経過とともに色落ちし、購入時の色とは違ってきてしまう可能性もあります。パワーストーン系の石では退色注意みたいに言われることが結構多いのは、パワーストーン系の石には人為的な着色処理が行われていることがわりと多いということとも関係しているのかもしれませんね。

石を取り扱う・身に着ける際の注意

ケースに保管してずっと置いておくならばあまり気にする必要はありませんが、指輪やブレスレット、ネックレス等として身に着けたり、もしくは握り石としてポケットに入れて持ち歩く際には、その石の特徴を把握し、破損や劣化しないように気を付ける必要があります。
一般に、指輪やブレスレットは手や腕を動かす際にドアノブや机の角などに意図せずぶつけてしまうなど、破損につながる衝撃を受けやすいので、慎重に行動する必要があります。
(見方を変えると、高額な指輪を身に着けていると、破損が怖くて動作や所作の一つ一つを丁寧に行わざるを得ないので、結果的に優雅な動作が身に着いていくというような効果があるかもしれません。)
よく言われることですが、家事やスポーツをするときは外しておくほうが安心です。

ネックレスやブローチ等は、指輪に比べると可動範囲が狭いので比較的安全だと言われることが多いですが、チェーンが長めのネックレスだとかがんだときに振り子のように揺れて壁にぶつけたり、服を脱ぐときについボタンの金具の部分にぶつけてしまったりなど、破損の原因になることはいくらでも生じうるので、硬度や靭性の低い石を身に着ける際には特に丁寧な動作を心がけましょう。

パワーストーン系の石については、「浄化」として太陽光に当てたり水に晒したりする行為が行われることがありますが、石の種類によっては退色したり劣化したりする可能性もあるので、事前に石の特徴を確認しておくことが大切です。
保管の際は、退色しやすい石については直射光を避ける必要があるほか、他の石とぶつかって表面に傷がつかないようにしましょう。

まとめ

以上で説明してきたように、宝石の耐久性には様々な要因が関連しており、これらが組み合わさることによってその石の総合的な耐久性が決まってきます。
一般論としては、硬度や靭性が高いほど、また、安定性が高いほど、安心して長期間身に着けていていられることになります。

高価な宝石であれば、家宝として世代を超えて受け継がれていくこともあるでしょうから、耐久性があることは大前提となります。
伝統的な価値を認められた来た宝石種に関してはこうした条件を満たしているものが多いですが、パワーストーン系の石として最近人気が出てきた石の中には、硬度が低い石や劈開性が強い石もかなり混じっているので、自分が持っている石の特徴を理解し、丁寧かつ適切に扱うことが必要です。

出典
  • Oldshaw, Cally (2008). Gems of the World. New York: Firefly Books.

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