石のカラット数と刻印の数値のずれ:中古品のジュエリーで実際に経験した例

石のカラット数と刻印

石を指輪等のジュエリーに仕立てた場合でも、最初からジュエリーとして販売されている場合でも、その石の重さ(カラット数)が金属部分に刻印されることが一般的です(あえて打刻しないブランドなど、例外もあるようですが)。
購入する側としては、この刻印の数値が当然正しいものとして信じて購入するしかないわけですが、場合によっては刻印の数値と石の実際のカラット数がずれている、なんてこともあり得ます。
今回は筆者が最近実際に体験したケースを紹介したいと思います。
(なお、ここで言う「ずれ」とは、1.071ctなのに刻印が1.07ctとなっているみたいな小数点以下の表示の仕方の問題ではなく、石が実際には0.5ctなのに0.75ctと刻印されているみたいな明らかにずれているようなケースを指しています。)

刻印のカラット数が実際とずれていたケース

中古のアレキサンドライトのペンダントネックレスの例

今回の話の主役はアレキサンドライトのペンダントネックレスで、名古屋にある有名な質屋さんのオンラインショップで中古で売られていたものです。
ネットで色々調べてみると、アレキサンドライトで有名な某ブランドの系列のお店で販売されているのと同じデザイン(たしか、某ミュージシャンがデザインしたものだとか何とか)であることが分かりました。
購入してから分かったことですが、金属部分の表面に大きく擦ったような目立つ傷(中古には良くある程度という範囲をはるかに超えたもの)があるので、元の所有者が使っているうちに傷つけてしまったので売りに出したとかそんなところでしょうか。
(筆者は金属部分には関心がない(アレキに付いてくるおまけくらいにしか考えていない)ので、傷があっても特に気にはなりませんでしたが、販売店の商品説明に記載がなく、「返品不可」でもあるので、人によってはブチギレ案件だったかもしれません。)

まっすぐな方は鑑別書の写真、斜めに映っている方は販売店のページに出ていた写真です。

筆者は身に着けようと思って購入するわけではないので、デザイン云々には全く関心がなかったのですが、0.778ctとアレキサンドライトとしてはわりと大きい部類(しかも、そのブランドのものであれば質は非常に良いはず)だし、中央宝石研究所さんの鑑別書も付いているから別物の石ということもなさそうなので、購入することにしました。

一昔前の鑑別書なので、「現時点ではカット・研磨以外に人的手段が施されていないとされる宝石です。」という文言が入っています。最近の鑑別書ではこのコメントは使用されなくなりましたね。

商品が届いてから実物を確認すると、さすが某ブランドのアレキサンドライトだけあって色変わりも輝きもすごい、極めて上質な石でした。
カラット数の割には縦横のサイズが小さく見えましたが、プリンセスカットだし石がかなり深いんだろうなという風に解釈し(分厚い金属のプレートに石がはめ込まれていて、よくあるペンダント枠とは違って裏側が完全に閉ざされている状態であり、石の下半分を見ることができないデザインだったため)、あまり気にしていませんでした。

とにかくきれいなので気に入ってしばしば取り出しては石を眺めていたのですが、特殊なデザインのため石に汚れが付いたり埃が溜まってきたりしたときに掃除をするのが困難なので、だんだん嫌になってきてしまって10年近くしまいっぱなしになってしまいました。
何しろ、通常のジュエリーのように石鹸水で水洗いしようものなら石の裏側の部分に水が溜まってしまい、水分が蒸発するまでは輝きが失われてしまう(しかも裏側が閉じていて密閉空間なのでなかなか蒸発しない)という、石の良さがかわいそうなほど殺されてしまっている最低のデザインだったので・・・。

そのうち枠から石を外してみるかな、とか考えているうちにそのまま忘れ去ってしまっていたんですが、近年高騰している金の価格が最近になってさらに上がっているということで、手持ちのジュエリーを整理してみようかという流れの中でその存在が思い出されました。
もともと、アレキサンドライトをこの最低なデザインの枠から外してあげたいと考えていたのに加えて、地金の価格上昇という要因が加わり、2022年の3月末になってようやく(かれこれ10年越しに)枠から外すことを決意し、実行に移しました。(ちなみに、ジュエリーはそこそこの数を持っていますが枠から外すのは実は今回が初めての経験です。)

石を枠から外した結果

いつもお世話になっているお店で地金の買取もしているというので、石を外して枠(地金部分)だけ買い取ってもらうことができるか尋ねたところ、OKとのことで即依頼。
職人さんのところに送って枠から外してもらうとのことで、数日後に石が戻ってきました。

枠から外したアレキサンドライトの写真。左側が自然光や蛍光灯下、右側がペンライト下です。変色がはっきりしているだけでなく、色そのものがアレキサンドライトとしては極めて鮮やかな石なのですが、見た目通りにはなかなか撮れませんでした。

と、ここで問題発生。
刻印では0.778ctとあったが、枠から外した石は実際には0.501ctしかなかったというのです。
可能性としては・・・

  • もともと何らかの理由により刻印の値が実際とは違っていた(製造時のうっかりミス?実際よりもカラット数があるように見せかけるために意図的に違う値にした?もしくはもともと使われていた石と異なる石に入れ替えられた?)
  • 枠から外す際、石が欠けてカラット数が減った
  • 枠から外した後のタイミングで、職人さんまたはお店の人が石をすり替えた

など様々な理由が考えられますが、そもそも購入して届いた時点で「カラット数の割に小さすぎるな」と直感的していたので、むしろカラット数の計測値が小さくなったことに納得。
とりあえず思ったこととしては、「こんなこともあるんだなー」ということと、素人でもサイズに違和感を覚えたのに、「これを販売していた質屋の連中は鑑定のプロであるにもかかわらず騙されとったんかい!(本件以外にも、彼らの驚くべき「鑑定能力」の凄さを思い知らされ続けているので、特に驚きはしませんが)」ということです。
もしくは、おかしいと思いつつ販売していた可能性もありますが、そうだとしたら業界のモラルが低いということになってしまうので、きっとそうではないでしょう。

さて、こうなってくると、販売時に付いていた鑑別書も本当に正しいのかどうか疑わしい感じがしてきます。もしかすると、鑑別書を取った後に合成石にすり替えられているみたいなケースがあるかもしれません。
ということで、そのうち枠から外したアレキサンドライトの鑑別を中央宝石研究所さんに依頼してみようかと思います。
いつ行動に移せるか分かりませんが、進展があればここでまた報告していこうと考えています。

教訓

まともなお店で新品を購入したり、ルースから仕立てる場合はあまり心配する必要はありませんが、世の中に中古で出回っているジュエリーの中には、もともと使われていた石が別の石と入れ替えられ、結果的に刻印とカラット数がずれているようなものが存在します。
石を入れ替えるとは言っても、必ずしも騙そうという悪意を持って石のすり替えをしているとは限らず、ある人がお仕立て代金を節約するために手持ちのリングの石を入れ替えて使っていて(金属枠の再利用)、その後それを相続した人が質屋さんに持っていって手放した結果、実際のカラット数と刻印がずれたものが中古として出回っているみたいなケースもあるかもしれません。
最近はネットで誰でも中古のジュエリーを販売できるようになってきていて、購入する側からすると選択肢が増えて良いことなのですが、その一方で、中古で仕入れたものが転売されているようなケースでは、販売者自身も商品に問題があることを知らずに販売してしまっている可能性もあります。

石は鉱物種ごとに比重が違いますが、一応、「この種類の石は何カラットだとだいたい何ミリくらいの大きさだ」といった目安のようなものはあるので、明らかにカラット数とサイズが違う場合は怪しいぞと分かりますが、石の深さやカットの形状によってもサイズは前後しうるので、正確に見極めるのは困難です。
通常、鑑別書には石のカラット数やサイズが記載されますが、石が枠に留められた状態での鑑別の場合、カラット数は刻印の値が記載されるだけだし、今回のケースのように石が枠に埋め込まれていて裏側も閉じた状態の場合、サイズの記載も測定不能ということで省略されるため、判断に必要な情報が不足しがちです(実物を見れないネットでの購入の場合は特に)。

騙されないようにするために確実な方法は、石を枠から一度外して実際のカラット数が刻印のカラット数と一致するかを見ることですが、ネットの中古販売等においては「ノークレーム、ノーリターン」であることが大半なので、そんなことをさせてくれる(してくれる)出品者は滅多にいないでしょう。(仮に、自分が販売する立場だった場合、購入者が勝手に石を外してみた結果「違っていた」と言ってきたとしても、その外されている石が本当に自分が販売したものであるかどうか分からないわけで、素直に返金に応じましょうという発想にはならない気がしますし。)
従って、中古で買う場合はそういうことも含めてリスクだと割り切って買うしかありません。
中古の場合、新品で買うよりも圧倒的にお得に購入できるのが利点ですが、安いということはそれだけのリスクがあるということの裏返しでもあるわけですからね。

誤解がないよう補足しておくと、中古の商品がすべて怪しいということではなくて、ちゃんとしたお店で販売されているものに関して言えば、今回のようなケースはむしろレアなのではないかと思います。
今回紹介したアレキサンドライトを枠から外すのと同じタイミングで、もう一つ別にアレキサンドライトのペンダントを枠から外しましたが、そちらについては刻印のカラット数と枠から外した石の実際のカラット数は同じでした(厳密には、0.001ctずれていましたが、誤差の範囲内でしょう)。

左側はctがずれていなかった方、右側はctがずれていた方です。

これまでの過去を振り返ると、「こんなに安く手に入れることができるなんて、なんてラッキーなんだろう」などといい買い物をした気になっている時に限って、問題のあるものをつかまされているパターンが多かった気がします。
一般論として、常識から考えて明らかに安すぎる値段で売られている商品は偽物が多いイメージですが、石についてもこれが当てはまる(問題のあるものをつかまされる確率が高い)ということでしょう。
世の中なかなかうまくいかないものですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA